かずら

小林信也の実体験に基づいたエッセイを原案に、カツラを通して人間愛を描く

レイトショーのみの公開がもったいない

映画やドキュメンタリー番組の冒頭で目にする「これは実話に基づく物語である」―というフレーズ。視聴者はこれから目にする映像が、当時の社会を震撼させた大事件であったり、不治の病との闘病生活であったり、通常では考えられない奇跡が起こった…などとイメージするに違いない。

小林信也の実体験に基づいたベストセラーエッセイを原案にした本作「かずら…」においては、この全てが当てはまるといえるし、逆にすべてを裏切っているとも言える。誰もが人知れずに抱えている「コンプレックス」と闘う男が引き起こす事件と奇跡的な恋の物語。切ないほどに可笑しく、哀しいほどに心奮わせる作品が今ここに―。

かずら…日常生活では聞きなれない言葉だが、能や狂言の舞台で役者が頭部に着用する装具(いわゆるカツラ)を指している。

森山茂(三村マサカズ)は、地方の田舎町で建設会社に勤める35歳の独身男性。家族(両親・妹・弟)と同居し、平凡ながらも幸せな毎日を送っているように見える彼だが、若ハゲという大きな悩みがあった。茂の父親の頭は見事なまでにツルツルで、2人の弟も若くして早くもスカスカ状態。洗面所でドライヤーをかけると妹からは「無駄」と笑われ、飼い犬のフサフサした毛を見ると恨めしくなり、会社では「薄い」という単語に過剰に反応してしまう。

若ハゲがコンプレックスとなり、何事に対しても気持ちが後ろ向きになっていた森山だったが、東京への転勤をきっかけに一つの転機が訪れる。住み慣れた地方とは何もかもスケールが違う東京の街並みに圧倒されていた森山は、ビルの巨大ビジョンに映し出されたカツラのCMを見て思わず立ち止まる。「さぁ、あなたもチェンジ・ザ・ライフ!」というCMのフレーズに誘われるまま、カツラ会社を訪ねるが、アフターケアを含めて年間100万円という高額な維持費が必要という現実に意気消沈してしまう。

そんな帰り際に道端で目にした「早い。安い。うまい。あなたのカツラ作ります」という奇妙ななチラシ。藁にもすがる気持ちで森山が訪れたのは裏路地にある民家のような“大和田カツラ”。内装は美容室のような感じだが、ソファーに物憂げな美女が横になってお菓子を食べており、店で彼を迎えた大和田(大竹一樹)も無愛想で、怪しい雰囲気を放ちまくっている。

しかし、大和田は自信満々に「ウチは即日渡し」と答える。不安を抱きながらカツラのオーダーをすると、お手ごろな料金で外見も大手メーカー品と遜色のないオーダーメードのカツラが出来上がった。

カツラを初めて被って迎えた東京での入社当日―。「自分のカツラは不自然ではないか?」「本当に誰にもバレないだろうか?」と、次から次へと不安感に襲われる森山はトイレに飛び込んで、携帯電話で大和田に相談する。同様の悩みを抱えるカツラ愛用者を何人も見てきた大和田は「はじめは誰もが不安になる」「もっと自身を持て」とアドバイスをする。それからも、居酒屋で料理をこぼされて頭が汚れたときにも、どこからともなくスペアのカツラを持って現われるなど、頼もしくも不気味に森山をフォローをする大和田だった。

そんなある日、森山の所蔵する部署に若い美人スタッフ、牧田涼子(芦名星)がやってきて、森山と二人で新しいマンションのデザインを担当することになる。仕事で二人で過ごす時間が長くなるにつれて、涼子のことを好きになる森山。しかし、彼女と付き合いたいという一方で、カツラだけは絶対にばれたくないというジレンマが彼を悩ませることになる。

彼の気持ちを知ってか知らずか、思いがけずも涼子の方から休日のデートを誘われる。しかも、デートコースに選んだ先はよりによって遊園地。遊園地→ジェットコースター→風に煽られカツラが外れる…という被害妄想が森山を襲う!今度こそバレル!どうせバレルなら、自分から堂々と言うべきなのだろうか、いや、自分がハゲだとわかったら涼子に嫌われる。それなら告白までなんとしてでも隠し通すのか。コンプレックスを抱えた男たちによる「頭上最大」の戦い、そして恋の行方はどうなるのか!?

キャスティング

コンプレックスを克服すべく奮闘する大森と彼を陰で怪しいまでに(?)支える大和田を演じるのは、本作品が映画初主演となる人気お笑いコンビ「さまぁ~ず(三村マサカズ&大竹一樹)」の二人。台詞や演出もお笑いの舞台での二人を意識した内容となっており、ファンならばより一層楽しめる作品になっている。

森山が恋に落ちるヒロインの涼子役には映画「七瀬ふたたび」、「カムイ外伝」などで感情を表に出さないクールな演技が高く評価されている芦名星を起用。そのほか、そのほかベンガル、田中要次、麿赤兒ら脇を固める個性派キャストの円熟味のある演技にも注目。

小林信也のベストセラーエッセイである「カツラーの秘密」「恋するカツラ」「カツラーの妻たち」を映画化した本作品でメガホンを取ったのは、「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」の塚本連平。脚本を担当するのは、「大洗にも星はふるなり」、「33分探偵」シリーズや月9ドラマ「東京DOGS」などの話題作を手掛ける福田雄一。

さらに、子役の大橋のぞみとのコンビによる「崖の上のポニョ」の大ヒットが記憶に新しい藤岡孝章(藤岡藤巻)が劇中で流れるBGMを、沖縄音階にロック、レゲエなどのサウンドを取り入れた独自のバンドサウンドで幅広い人気を誇るバンド・かりゆし58が本作品のために書き下ろした主題歌を熱唱するなど、万全な布陣のスタッフと、勢揃いした濃いキャラを持つキャストたちが「さまぁ~ず」を迎え撃つ!